故人とのお別れに感謝を伝える心のこもったお葬式には、各宗派に沿ったしきたりがあります。ここでご紹介する各宗派の特徴を理解して、心からの“ありがとう”を伝えましょう。
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臨済宗
「禅宗」に分類される臨済宗は鎌倉時代に伝わり、自分自身と語り合い、見つめることで悟りを開くと云う考え方があります。葬儀は3つに分かれ、授戒(仏門に入るため、戒律を授ける)・念誦(経典などを口にする)・引導(導師が故人を仏門に導く=浄土に旅立たせる)で構成されます。臨済宗の葬儀は他の在来仏教と異なる部分が多く、なかなか複雑な面もあります。また臨済宗の僧侶になるための修行は、仏教の中でも特に厳しいと云われており、厳格なご住職が多い傾向にあるので、何か疑問点がある場合は専門の葬儀業者に相談しましょう。
葬儀の流れ
① 葬儀
-1導師(臨済宗での宗教者の呼び方)入場。
-2剃髪:髪の毛を剃る儀式ですが、現在では剃刀をあてて、剃る素振りをします。
-3懺悔文:亡くなる前後に、今までの人生の行いを悔い、罪の許しを乞います。
-4三帰戒文:仏の教えに帰依することを誓う
-5三聚浄戒。-6十重禁戒:清めの儀式。これで正式に仏門に入ることになります。その後、香を焚きます。
② 入棺~説法
-1故人が入棺、また閉じるときには、特別な念誦が唱えられます。念誦は心の中、口に出して仏や経文を唱えることで、これは出棺時にも行われます。
-2「山頭念誦」と呼ばれる特徴的な儀式があり、故人の成仏を願って、「往生咒(おうじょうしゅ)」を唱えながら太鼓を打ち鳴らす儀式で、「鼓ばつ」とも呼ばれます。その後、導師によって引導の法語が唱えられます。
焼香の仕方
① 仏前で合掌し、礼拝する。
② 抹香をつまみ、香炉に入れる。
③ 合掌して、礼拝する。
臨済宗での焼香は1回だけが基本です。宗派によっては一度、又は複数回、抹香を額にいただいてから焼香しますが、臨済宗ではこの行動はしません。ただ、額にいただくことを禁じている訳ではありません。このように回数も、額にいただくかどうかも、明確な「決まり」がある訳ではありません。因みに、より丁寧に2回行う場合は、其々、1回目「主査」、2回目「添え香」と別々に呼ばれるケースもあります。
曹洞宗
曹洞宗は禅宗の一派で、葬儀には独自の役割が考えられています。
・死後、お釈迦様(釈迦如来)の弟子なるために、葬儀を行う。
・弟子になるのに必要な、戒名・戒法を授かるために「授戒」を行う。
・悟りを開くために、仏の道に導く「引導」を行います。
式次第
曹洞宗の葬儀は、他宗派と比べても特徴的です。
① 剃髪の儀式:導師(引導を渡す僧侶)が剃髪を行う。
② 授戒:
・酒水(しゃすい)-清い水を手向ける
・懺悔文(さんげもん)-生涯犯した罪を反省します
・三帰戒文(さんきかいもん)-仏陀の教えを守り、修行者として帰依することを誓う
・三聚浄戒(さんじゅうじょうかい)・十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)-導師が用意した法性水を故人の頭や位牌に注ぐ
・血脈授与(けちみゃくじゅよ)-お釈迦様から故人へと続く仏法の系譜を記した「血脈」を霊前に供える
③ 入棺諷経(にゅうかんふぎん):読経、焼香を行う。
④ 龕前念誦(がんぜんねんじゅ)
⑤ 挙龕念誦(こがんねんじゅ):曹洞宗の葬儀の特徴の一つで、太鼓やハツを鳴らして鼓鈸三通(くはつさんつう)を行う。
⑥ 引導法語:導師が故人の生前を漢詩で表し、松明で円を描いて、悟りの世界に導きます。(引導)
⑦ 三頭念誦(さんとうねんじゅ)
⑧ 出棺:再度、鼓鈸三通を行って、出棺します。
焼香の作法
① 焼香台に進む。
② 焼香台の2.3歩前で立ち止まり、ご本尊、遺影、位牌に軽く一礼します。
③ 焼香台前まで進んで、右手でお香をつまむ。
④ 軽く左手を添えて、額に押し頂き、念じて焼香します(正念)
⑤ 1度目に焼香したお香のそばに2度目の焼香をします(従香)。これは額に押し頂きません。
⑥ 数珠を両手にかけて、合掌・礼拝します。
※ポイントは「2度焼香」「1度目は額まで手を持っていきますが、2度目はそのまま」の2点ですが、会葬者が多い場合は、「焼香は1回でお願いします」と指示されることがあります。
香典の包み方
・香典の表書きは「御霊前」または「御香典」です。
・筆、又は筆ペンで水引の下中央に差出人名をフルネームで書きます。友人や同僚など
複数人で香典を渡す場合は、「〇〇一同」などとすればよいでしょう。その場合は、中に其々の名前と金額・住所を書いた明細を同封します。
・金額は一般的相場と変わりません。友人-5,000~1万円程度、勤務先関係者-5,000円
程度、身内の場合は年齢・間柄によって大きく変わりますが、1~10万円の間でしょう。香典の場合、新札は不適切とされることが多いので、綺麗なお札の場合は一度折るなどすればよいでしょう。ただ、汚れていたり、くしゃくしゃのお札を使うのも失礼になります。
・お札を入れる中袋は、左、右の順に上包みの紙をかぶせて、上側が下側にかぶさるよう
に包みます。
葬儀費用の相場
仏式の葬儀費用で、宗派によって異なる点は、寺院に納めるお布施によります。普段のお寺さんとのお付き合いの度合いや戒名の位によって、金額に大きな幅があります。目安を知りたければ、菩提寺のご住職にお尋ねするのがよいでしょう。また、お布施とは別に、お車代や、会食に僧侶が参加されない場合は御膳料などを配慮してください。5,000~2万円程度が目安となるでしょう。
日蓮宗
日蓮宗の開祖、日蓮聖人の教えは法華経の功徳が込められた「南無妙法蓮華経」のお題目を唱える修行が重要だとされています。そのお題目を繰り返し唱えて修行することで、死後、「霊山浄土の釈迦牟尼仏にお会いして、成仏できる」というのが、日蓮宗の教えです。
ですから、葬儀においても「南無妙法蓮華経」というお題目を葬儀の最中に唱えることで、「故人の生前の信仰の深さを讃えて、霊山浄土に辿り着き成仏する」手助けが出来、功徳を積むことで修行が進むとされています。
葬儀の流れ
故人が亡くなった当日の夜、又は次の日の夜に通夜を行い、その翌日に葬儀・告別式を行うのが一般的なお葬式の流れです。葬儀・告別式は遺族の集合、受付準備を含めて午前10時頃開始、約2時間で閉会するのが通例です。
① 葬儀
-1司会者(葬儀社)による開式宣言後、僧侶による読経が始まります。
-2「総礼」→「道場偈」→「勧請」→「開経偈」と続き、参列者全員で「読経」→「唱題」で経本を読み上げ、「南無妙法蓮華経」を唱えます(地域により多少異なります)。
その途中にある、日蓮宗独自の儀式は次のとおりです。
「開棺」:僧侶が棺の蓋を叩きながら、読経をし、お供え物のお花やお茶、お膳などを祭壇に捧げます。
「引導」:仏様に故人を引き合わせる儀式で、僧侶は払子と呼ばれる仏具を振って、引導文を読みます(宗教者により作法が異なる場合があります)。
② 焼香マナー
僧侶の読経が終わると、「南無妙法蓮華経」を唱える唱題が行われ、その間に参列者が焼香を行います。日蓮宗では合掌一礼し、焼香盆のお香を右手の親指と人差し指でひとつまみとって、火種に振りかけます。日蓮宗の導師は焼香を3回行うのが正式な作法とされていますが、一般参列者は概ね1~3回です。左手に数珠を持ち、右手でお香を火種にくべた後。再び合掌一礼し、席へ戻ります。線香を立てる場合は、1本又は3本立てます。
香典マナー
「香典」は本来、「ご霊前にお供えする線香や花に代わるもの」ですが、突然のご不幸に対する相互扶助的な意味合いや気持ちが込められ、現代では「亡くなられた方へお供えする金品」になっています。香典を入れる不祝儀袋の表書きの表記は、信仰する宗派によって異なります。仏教以外の宗教信仰者や無宗教者の場合は、一般的に「御霊前」「御香料」「御香奠」のいずれかを表記すればよいでしょう。
日蓮宗では、亡くなられた方は四十九日を境に成仏されるという考え方なので、四十九日手前の法要までは「御霊前」または「御香典」と書きます。四十九日以降の法要では「御仏前」または「御香典」と書きましょう。
葬儀費用
日蓮宗の葬儀では、日蓮宗特有の葬儀形態に合わせる必要があるので、宗教装具が揃っているかを確認した上で、葬儀費用を算出してもらう必要があります。
天台宗
天台宗は平安時代に最澄が開いた非常に長い歴史を持つ大乗仏教とされ、「すべての人間は仏の子」「真実を求め、追及する心が悟りに繋がる」と考えています。「一隅を照らす」という象徴的な言葉には、「自分自身が輝けば、周りの人も明るくできる。そんな人達が手をつないで生きていく世界は仏の世界と同じだ」という天台宗の根幹となる考えがあるのです。
3つの葬儀の特徴
① 顕教法要:人は皆、仏の子で、その身には仏性を宿しているから、懺悔することで仏性を高めることが大事と考えて、日々の懺悔として、法華経を唱えます。
② 例時作法:お経を唱えることで、死後に極楽に行けることを祈願し、また、現世でも極楽のような素晴らしい世界にするという願いを込めます。
③ 密教法要:定められた印を作って、真言(仏の言葉。真実の言葉)で弔うことで、故人が極楽へ行けると考えています。
葬儀の流れ
① 通夜では、臨終の誦経や通夜の誦経が、亡くなった後に行われます。水やお香を使って故人の身を清め、「仏の元に出家する」という考えで「剃度式」が行われます。「剃度」とは、髪の毛に剃刀をあてることでしたが、現在では実際に剃髪することはほとんどありません。この剃度式後に、戒名が授けられます。
② 葬儀には「列讃」と云って、穏やかな曲が流れて、打楽器が鳴らされる中、阿弥陀如来に迎えられる故人の成仏を導師にお祈りして頂きます。列讃の後、棺が閉ざされます。
その後、お茶を供える儀式として、「奠湯(てんとう)」「奠茶」があります。
③ 導師により引導が渡され、たいまつや線香などで空中に梵字が描かれます。故人を称える文が唱えられ、弔辞を読んだ後、読経を行います。最後に回向文が唱えられて、葬儀は終了をなります。
焼香の作法と数珠
天台宗の焼香は基本的には3回行われます。
① 合掌礼拝後、右手の親指と人差し指と中指の3本の指で香をつまみます。
② 右手に左手を添えて額にいただいてから、焼香します。
③ 以上を3回繰り返した後、再度合掌礼拝します。
ただ、これはあくまで一つの基準で、焼香の回数は明確に定められていないので、式場の案内で1回焼香を促されることもあります。線香を使用する場合、1本を真ん中に立てますが、3本の場合はその後ろにさらに2本を立てます。
天台宗の数珠では、一般的な丸い球を連ねた数珠を使いません。楕円形の平たい108個の「主玉」と4つの「天玉」、そして1つの「親玉」が連なって、親玉からはさらに紐が伸びて、その紐に「弟子玉」が連なるという、特徴的な数珠になっています。その数珠を、親指と人差し指の間に引っ掛けるように持って、弟子玉が連なる部分を下に垂らして、礼拝します。
天理教
天理教では、神様が人間に体を貸し与えてくださっているという考えから、神様は人間の親であり、其の身を育み、教えてくれるとしています。ですから、天理教では亡くなる事は「神様に体を返すこと」と解釈し、また新しい体が見つかるまでは、魂を神様にゆだねるという考え方をします。これが「みたまうつし」と呼ばれ、通夜の儀式に象徴されます。昭和20年までは神道の一種との考えが強かったので、天理教の葬儀は神道と似たかたちをとりますが、相談相手は「神社」でなく、全国各地の教会が対象となります。
葬儀の流れ
① 通夜
-1.祓詞の奏上:お祓いの言葉を述べます。
-2.みたまうつし:魂を体から移して、神の御許へ届けます。
-3.供物を供える~礼拝:供物を神前に供え、斎主が玉串奉献を行います。みたまうつしを完了させるために、「しずめの詞」を唱えることが非常に重要とされています。
-4.列拝と玉串奉献:世話役の列拝の後、喪主(喪家)、参列者による玉串奉献が行われます。
② 告別式
告別式でも、供物をささげ、告別式の詞が奏上され、玉串奉献を行うなどの基本的流れは通夜と同じです。ただ、同じ「天理教」の中でも、葬儀のやり方には地方差があることも、承知しておいてください。
香典マナー
まず、蓮の花の描かれた香典袋は仏教の考え方に通じるので、天理教では使用しません。表書きについては神道に準じて、「御玉串料」「御榊料」「御霊前」が一般的で、「御仏前」は当然用いられません。尚、「御霊前」という表記は、天理教以外のいろんな宗教でもよく用いられる表現です。水引は地域によって、黄と白、黒と白、または銀色を使いますが、水引の形が「結びきり」であることは共通しています。尚、香典返しにおいては、「偲草」と云う、天理教独自の表記が用いられます。
玉串奉献と参拝の方法
天理教の玉串奉献の方法は、神道と同じで、両手で玉串を受け取りますが、右手は手のひらを下に、左手は手のひらを上にして受け取ります。その後、玉串を時計回り(右)に回して、祭壇側に茎を向けて静かに置きます。その後、参拝となります。
【参拝の方法】
-1.祭壇前で2回礼(離れている場合は1礼の場合もあります)
-2.柏手を4回打つ(控え目な音)※
-3.一拝
-4.柏手を4回打つ(控え目な音)※
-5.一礼
※通常の葬儀では、柏手は「しのび手」と云って音を立てないのですが、天理教では必ずしも「しのび手」でなくても良いとされるのが、天理教の葬儀の大きな特徴と云えます。
いかがでしたか、今回は紙面の都合上、5つの宗教、宗派の葬儀についてご紹介しました。各宗教、宗派によって葬儀の形式に違いはありますが、見送る方は故人に哀悼の誠を捧げることが第一と考え、ここで挙げた作法を参考にして頂ければと願います。